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「KU館」は木造三階建てで、かなり古そうな旅館だった。
われわれは3階の「松八の間」に通された。ぎちぃ、ぎちっ、ぎちぃ、と板張りの床
や階段が軋む音がする。柱には大きな振り子時計。照明も多くないのに、ちっとも暗
くない。床はピカピカで、廊下の窓や手すりにはホコリもない。案内してくれる女将
さん(か仲居さんか)は、とっても爽やかな感じ。
部屋の入口はフスマだが、部屋の玄関があり、古い鏡台のある前室(鏡の間?)を通
って客間(6畳?)に到る。部屋の外に椅子と机のある廊下をへだてて窓からはサル
スベリが見える。
「御食事は7時頃でよろしいですか? それとも今から召し上がりますか?」
「じゃあ、今からいただきます」
「では、用意ができたらお呼びいたしますから」
9部屋しかないこの旅館に、夏休み最後の土日だというのに客は4組しか泊まってい
ないらしい。食事も、空いている客間に準備された。
呼ばれて案内されると、2階の客間に黒塗りの長い卓が2つと座椅子が2つ。妻と差
し向かい。卓上には「先付け」が配されていた。山ぶどう酒に、さまざまなに型どら
れたそぼろや何やら、器の向こう側には大根に稲穂がさしてあって、訪れる「秋」を
あらわしている。
「へえーっ、すごいね」
「こうやって差し向かいで料理を食べるのって、今までなかったね」
「あまり飲めないけどやっぱりビールをたのもう」
つづく
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